新型フロー電池の開発
下の表“各種電池の比較”に示すように、運搬等に有利な液体型の電池である“バナジウムフロー電池”は、既に実用化されているものの、一般的なリチウムイオン電池と比較して、エネルギー密度は10分の1程度になります。一方で、寿命、可搬性、安全性、再利用(再充電)といった観点からは他の電池よりも優れていると言えます。
現状のレドックスフロー電池のエネルギー密度では、一回に運搬できるエネルギー量が少なく、運搬コストを含めた際に電気料金が高くなってしまいます。
弊社の試算では、少なくともリチウムイオン電池同等の300Wh/L程度のエネルギー密度(既存フロー電池の10倍)でなければ、遠方の安価な再エネを用いても、日本国内で使用する際には消して安価と言えない状態になります。
そのような観点から、我々はフロー電池の高エネルギー密度化を目指して研究開発を行ってきました。
各種電池の比較

分散型燃料による高濃度化
すでに実用化されているバナジウム型レドックスフロー電池(VRF)は、水に溶解させたバナジウムイオンの価数を変化(価数を変化=酸化還元=レドックス)させて電気を貯めます。
即ち、エネルギーを貯める材料(=バナジウムイオン)を高濃度に水に溶解させることがエネルギー密度を向上させる手段となります。
その他、様々なエネルギーを貯めるイオン種を変化させたレドックスフロー電池が研究されていますが、この“水に溶解させる”方法では、溶解限界があり、リチウムイオン電池などのその他の蓄電池と比較して、エネルギー密度が大きく低下してしまいます。
そこで我々は、エネルギーを貯める材料を溶解させるのではなく、固体粒子を電解液に分散させる手法を開発しました。これにより、分散限界はあるものの、溶解限界と比較して大幅にエネルギー密度を向上させることに成功しました。
溶解と分散の違い

単位体積あたりに蓄えられる電気容量

空気極採用による正極フリー構造
既存のレドックスフロー電池は、正極用燃料(電解液)と負極用燃料(電解液)の二種類の燃料が必要です。我々は、正極燃料に空気中の酸素を使っています。即ち、空気が存在する場所では正極燃料を準備する必要がなく、負極燃料のみで良くなります。この空気極の技術は水素の燃料電池等で実用化されている技術です。これにより、エネルギー密度をさらに倍増させることに成功しました。
正極が空気(酸素)を燃料とする分散系フロー電池
一般的なフロー電池

新型フロー電池

分散型フロー電池での高エネルギー密度化の実証
左下図は弊社で作製した燃料の様子です。法政大学森研究室と共同で開発した分散技術により、充放電材料を高濃度に分散した際にも粘度上昇を抑制し、フローを妨げない低粘度を達成しました。下中央図は実験用セルの写真です。黒く見える穴のあいた部分が空気極で、空気を拡散させるガス拡散層が見えています。右下図は実験用セルの燃料極(負極)側の写真です。ポンプからセルへ燃料を送り込む注入口が見えています。
燃料

実験用セル(正極側)

実験用セル(負極側)

下動画では、実験用セルにモータを接続し、燃料を注入しています。燃料がセル内に到達した後に、プロペラが勢いよく回転しています。またセルスタックで高電圧化することで、ミニ四駆を動かすことができました。
充電した燃料でモーターを動かす様子(動画)
セルスタックでミニ四駆を動かす様子(動画)
下図は5mA/cm2の電流密度で放電(発電)させた際の放電曲線です。平均放電電圧が0.84Vで、410Ah/Lの容量密度まで放電しております。即ち、344Wh/Lを実証できました。既存のバナジウムフロー電池と比較して10倍以上のエネルギー密度を達成しました。
現在は、セル構造を改良し、出入力の向上、寿命の確認を行っています。
新型フロー電池での放電曲線

実用化計画


『卵が先か、鶏が先か』問題の解消
新たなエネルギーの導入において、必ず障壁となるのが、アプリケーションの普及が先か、インフラの普及が先か、の問題です。例として、水素の燃料電池車が挙げられます。水素燃料電池車が普及しないと、水素ステーションが普及しない。水素ステーションが普及しないと、燃料電池車が普及しない。。。。。
我々も新たなエネルギーインフラを提案しているので、この問題を無視するわけにはいきません。
我々の提案するフロー電池は、再エネ等で充電した燃料を運搬することも可能ですが、蓄電池です。即ち、発電量が安定しない再エネの負荷平準化にも利用できます。供給量過多な(電力市場で安価な)時間帯に充電して、電力需要が高まった際に放電するという一般的な蓄電池としても利用できます。そして、正極燃料に無料の空気を使用する、電解液が水系であるなど、他の蓄電池に対してコスト的にも有利になると期待しています。即ち、モビリティーなどのアプリケーションの普及の前に、再エネ発電所等への負荷平準化用蓄電池として、“燃料製造所”を普及させることが可能と考えています。
そして、燃料製造所のインフラの整備(蓄電池の普及)と、電池としてはより高機能が求められるモビリティー用電池の開発を並行して行います。
また、弊社開発燃料は常温常圧で液体のため、既存のガソリンスタンド、タンクローリー、タンカーなどの化石燃料で整備したインフラが利用できます。
即ち、アプリケーション(弊社フロー電池を用いた電気自動車)開発が完了した際には、既にインフラが整備された状態を作り出すことができ、もはやそこには、卵か先か、鶏が先かの問題はありません。
